「クライミングが強い」とはどういうことか?

 クライミングという競技ではより難易度の高い課題を登れるひとを「強い」という.自分で登っていても以前は登れなかった課題が少しずつ登れるようになり強くなっている気はするが,実際に何が強くなっているかと言われるとすぐには答えられない.クライミングが強いということがどういうことかわかっていないと強くなりたいと思っても何を鍛えればよいかわからないだろう.ここではクライミングが強いとはどういうことかについて考える.

筋力が強い

 クライミングを始めた当初は腕をはじめ背中や全身にものすごい筋肉痛を経験する.登るという競技性からある程度の筋力は必要だ.ひとつのホールドを持つにしても筋力のあるものとないものだともてる時間が違うし,引き上げる距離も違ってくる.こういう点で筋力が強いというのはクライミングの強さの1つである.

 筋力と言っても大きく分けてクライミング界隈では3つの筋力がある.1つ目は瞬間最大筋力といわれるもの,いわゆるパワーだ.パワーが大きければ大きいほどより力強く,ダイナミックな動きができる.次は筋持久力といわれるもので,持ったホールドをどのくらい持ち続けられるかに関わる.後は回復力で,消耗した筋力がどのくらいで回復し次のホールドを持てるかというもの.

 筋力を鍛えるにはクライミングをするのが一番効率がいいだろう.ただし手の解剖を少しは理解しておくと効率がいい.というのはホールドによって使う筋肉が違うからだ.ガバを持つときに使う筋肉,カチを持つときに使う筋肉,ピンチを持つときに使う筋肉,スローパーを,,,プッシュを,,,それぞれ違った筋肉なので自分の弱いホールドをもつ練習をすることで筋力は鍛えられるだろう.

ムーブの引き出しが多い

 次に考えるクライミングの強さとは「技」にあたる部分で,よくムーブの引き出しの多さ,と言われる.ホールドから次のホールドに移る際に最も合理的な動きがある.合理的な動きができればより少ない力で登ることができる.この合理的な動きは体の大きさや各自の能力によって変わってくるが,自分ができる動きのパターンが多ければ多いほどより適したムーブを見つけられるだろう.ムーブの引き出しは登った経験値に左右されるだろう.同じ課題を登るにもいろんなムーブを試してみるといいかもしれない.また体の柔軟性はムーブの引き出しを増やすために必要だ.体が柔らかいほどいろんな動きができる.

想像力

 ボルダリングは「体を使ったチェス」と巷では言われるらしい.たしかにムーブを起こす際に必要になってくるのは想像力だ.ひとつのムーブをとってみても,腰の位置とか,足の向きとか,指のかけ方とかほんの数mm違っただけで動きやすさが変わってくることがある.この動きでどのように負荷が変わるのかを調整しながら登らなければならない.オンサイトトライでは,事前にオブザベーションをしてある程度イメージしておく必要がある.

 ムーブの引き出しを増やしたり,想像力を豊かにしたりするには経験値を増やすことが大事だが,他の人の動きをみるのも勉強になる.

集中力が高い

 どんなスポーツでも集中力を欠いてはよいパフォーマンスはできない.クライミングは他の競技以上にこの点が大切だと思う.持つところ,足を置くところが1mmズレただけで登りやすさは変わってくる.この微妙な体のコントロールをするには集中力を高める必要がある.

心が強い

 クライミングの強さのもう一つの要素としては心の強さだ.高いところに登るクライミングは,人間の本能的な恐怖心をあおってくる.恐怖心は集中を見出し,体を硬くする.普段できている動きが全くできなくなる.高いところはもちろん怖いが,その怖さを受け入れ,マットやロープなどの安全確保器具を信じて登ることでより難しいグレードを登ることができるだろう.

 集中力は怖さを忘れる一つの武器になる.落ちることの怖さよりも次のホールドをとることに集中すればきっと今までよりも一つ強くなるだろう.

ではクライミングが強いとはどういうことか?

 これまでクライミングが強いとはどういうことかの答えを得るべく,クライミングの強さを構成する要素について考えてきた.結論として,クライミングが強いというのは,「多彩なホールドをより確実に保持でき(筋力・集中力),次のホールドを取りに行く際に効率よく体を動かし(ムーブ・集中力),保持しにくいホールドも粘り(集中力・心),これらの動きが高所でも発揮できる(心・集中力)」ことだろう.言葉にするとなんとも陳腐なものになるが,クライマーみんながより高みを目指して今日も頑張っている.

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