空を飛んだ話と飛ばなかった話 瑞牆でエアウェイを登った

 エアウェイを登った。

 瑞牆の十一面岩末端壁にあるボルトミックスのルート。5.11クラックの登竜門であるアストロドームからハングを越えて露出感のあるフェイスを登るルートだ。Rこそつかないもののエアウェイパートは唯一のボルトを超えてからランナウトしながら登っていくため恐怖心をかりたてられる。ボルトを2mほど足もとにして浅いクラックにカムを決める。その後は春うららに合流するまで5m以上プロテクションはとれない。ここで落ちようものなら10m近い空中遊泳が待っている。

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 アストロドーム自体は2年ほど前にRPしている。エアウェイに触ったのは昨年の秋、2便リードで登りいずれも空中遊泳を楽しんでいる。ムーブこそおおよそできていたものの繋げることはできなかった。その後冬山シーズンになり瑞牆から足は遠のいた。

 

 今回8ヶ月ぶりに触った。ビッグウォールトレで十一面岩に行くことが多かったが、エイドトレで春うららを登ったときに隙を見てちょっとトップロープで上部のムーブを確かめた。忘れていたところはあったが個々のムーブはやはりできそう。そうして今回は今シーズン2日目、トータルで4日目のトライだ。とはいえ、ビッグウォールも大事。初日はしっかりとマルチで荷揚げトレを行い、お昼寝テラスでビバーク。狭く傾いた岩場で夜を越し、そのまま2日目は末端壁で遊ぶことになった。

 朝一でリード便を出すがアップ不足なのか、眠さなのか、疲労なのか、あるいは3月の骨折の影響なのか、アストロドームパートでひいこら行っている。ムーブも現場処理が多いし、前に決めたカムだとどうやら足りなさそう。あきらかに以前より登れていない。あっぷあっぷでアストロドームを登り切るがレストポイントでも回復する兆しがない。仕方なくそのままハングを越えようとするが、よいポジションに入れなくかろうじてボルトにヌンチャクをかけたところでそのまま掴んでしまいテンション。大休止をしてからテンテンでトップアウト。たしかに個々のムーブはできそうだが、つなげて登れる気配はまったくない。アップ不足だと自分に言い聞かせ2便目はトップロープであやふやだったところを再確認しムーブをつくる。思いの外繋がるが、最後の最後でテンションが入る。この日はもうひとりエアウェイをする人がいて、その人を眺めながらうたた寝しつつリードでやろうか考える。行ける気はしないがせっかくだからリードで、と気持ちを作る。

 その後もパートナーのビレイをしたりしてしばらく時間が空いてから自分の番、一応ロープは残していたが覚悟を決めて引き抜く。体力的にも眠さ的にも今日はこれがラストトライかな?とか思いながら離陸する。相変わらずアストロドームで疲れている。それでもさっきよりはいいかな?いくつかあるレストポイントでしっかりと回復させつつハング下へ。トップロープのときにクリップのポジションを確認していたがそれでも居心地は悪い。いつでも落ちれそうだ。そうして強度の高い核心部へ。疲れるけどムーブは完成されており少し余裕はある。とはいえ声は出る。足を信じて高度をあげるとようやくレストができる。いつみてもあやしいクラック?に黄と紫のキャメロットを突っ込み最終局面へ。右手で耳たぶみたいなアンダーフレークを持って左手はガストン、最後の足上げで一瞬踏むところがわからなくなりバランスを崩したがなんとか修正して左へ移る。普段なら「ガバだよ」とか言いそうなカチを2手ほど経由して安心と安定の本物のガバを取る。来てしまった。来れてしまった。ここからは5.9くらいだが、ここまで来たらもう落ちれない。落ちることは許されない。パンプはそこそこだが、いかんせん息が上がる。心拍数も高い。春うららに合流してからもしつこいくらいにレストを挟みながら、このあとのムーブを思い描く。よし、大丈夫だ。慎重に一歩一歩足を上げていく。テラスにあがるところも動画の杉野さんみたいにスマートにはいかず腹ばいになりながら岩にしがみつく。

 テラスに立ち上がり終了点にクリップすると思わず声が出る。喜びの雄叫びと言うよりも安堵のため息だ。一呼吸おいて、まるでそれがクライマーの義務化のように喜びの声も出しておく。

エアウェイ5.12a

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 見栄えのするルートではあるがルート自体に特別強い思い入れがあるわけでもない。グレードも決して厳しいものでもない。でも怪我をしてなかなか思うようなクライミングができていなかった自分にとって復帰後はじめての5.12aは嬉しい。特別な思い入れなかったのは以前のことでこの瞬間から自分にとって特別なルートになった。また怪我をする前に登れなかったルートを登れたことで以前の自分に近づけたような気もした。

 クライミングは右肩上がりで一様に成長するものでもない。怪我をしたり、ブランクがあたったり登れない日もある。それでとその時その時で自分を越えていく楽しみがあるからなかなかやめられない。

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