「事故を起こす可能性がどのくらいならあなたは登山(クライミング)をしますか?」
10%?5%?1%?0.1%?0%?
例えば1%の確率で事故を起こすということは100回登山に行けば1回事故を起こすことになる.山での事故は軽く済む場合もあるが,命にかかかわるものも多々ある.1か月に2回ほど日帰り山に行く人であれば4年で100回の登山を行うことになる.つまり,4年に1回は事故を起こすことになる.1か月に2回泊りで山に行く人であれば2年に1回は事故を起こす.
この問いに対する答えとしては極論をいうのであれば0%が望ましい.しかし,人間が行う以上,そして自然を相手にする以上,0%にすることはできない.過去,超一流の登山家でも山で遭難して命を落としている.技術をどれだけ高めても自然のちょっとした気まぐれで容易に命を落とす.このことを鑑みても山での遭難や事故を無くすことは不可能だと言い切れる.だからといって開き直って登山をするのではなく,事故を起こす可能性を下げる努力をすることは大切だ.山での遭難や事故を無くすことは不可能だが,無くすように努力はすることができる.
事故を無くすために何ができるか?ギアを正しく使う?バックアップをとる?単独行動をさける?リスクの高い行動はさける?安全マージンをとる?いろいろなことができると思う.そんな中,登山での安全マージンというものについて考える.
「安全マージン」というのは「安全性を確保するために持たされる余裕やゆとりのこと」らしい.登山計画を立てるときにルートを選ぶ基準にはいくつかあるが,自分たちの実力とルートの難易度があったものでなければ事故のリスクは上がるだろう.では,自分たちの実力とルートの難易度があっているとはどういうことか?人である以上より魅力的な刺激的なルートを選びたい.だが自分たちの実力を100としたときに難易度が100のルートが最適か?といわれると決してそんなことはない.100の難易度のルートを選んだ場合,1の想定外の事項が起きた時点事故が起こる.80のルートではどうか.これは安全マージンが20あるということだ.化学的な根拠があるわけではないが,安全マージンが20というのはやや心もとない.逆に20の難易度のルートはどうか.これは確かに安全に登山ができる可能性が高い.だが自分たちの実力が100なのに20のルートというのは物足りないだろう.そう考えると50か60くらいが妥当ではないかと思う.あくまでも感覚的なことだけれども.
自身の経験を語る.以前アルパインクライミングの経験が浅い2人で残雪期のコブ尾根に行ったことがある.雪山登山の経験は3年目であったが,雪稜,バリエーションルート,無雪期のクライミングなどいろいろ経験していたため「残雪期のコブ尾根くらいならいけるだろう」そういう思いがあった.でも今にして振り返ると当時の自分たちの実力に対して85か90くらいの難易度だったのではないか?晴れていて条件が良ければそれほど問題なく行けただろう.でも吹雪いたり,雪の付き方が悪かったりすると安全マージンをオーバーするかもしれない.事実,吹雪でホワイトアウトして稜線でビバークする羽目になった.幸い無事に下山することはできたが,今にして思うとルートの選択自体が間違っていたように思う.いい経験にはなったのだが,助かったのはたまたま運が良かっただけだろう.山において自分の命運を運に任せるのは怖い.
山で事故を起こす可能性を下げる方法はいろいろあるが,安全マージンが十分に取れるルート選択が大事だ.行きたいルートに対して自分の実力が不足して安全マージンを十分に取れない場合には,トレーニングをして実力をあげる,安全マージンが取れるように装備や行程を工夫するなどが必要だろう.
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